群衆のノイズを断て。「勝てる賭け」だけに資源を集中せよ

「これからはAIだ」「リスキリングだ」「次は人的資本経営だ」。経営者の集まりやビジネス誌を開けば、もっともらしい最新トレンドが次々と耳に入ってきます。

しかし、その喧騒に焦り、慌てて投資したものの、大した成果は出ず、現場だけが疲弊した。そんな苦い経験はないでしょうか。

人も資金も時間も限られている中小企業に、大企業のような「とりあえず試す」余裕はありません。世間の前評判に流されて経営資源を配分することは、会社の体力を奪う危険な賭けです。

中小企業は、情報量で大企業に勝つ必要はありません。「何を見るか」という判断基準の明確さで勝てばよいのです。

1970年代のアメリカ競馬界に、アンディ・ベイヤーという人物がいました。当時、多くのファンは、新聞の予想や馬の人気、競馬場の熱気を頼りに馬券を買っていました。

しかしベイヤーは、人気と実力は必ずしも一致しないと考えました。そこで、走破時計や馬場差などを調整し、馬の能力を比較する「ベイヤースピード指数」を生み出します。

彼が手にした優位性は、誰よりも多くの情報を集めたことではありません評判や空気に惑わされず、「何を基準に判断するか」を絞り込んだことにありました。

この考え方を中小企業の組織変革に置き換えるなら、見るべき物差しは次の4つです。

第一に、強い追い風があるか。一時的なブームではなく、5年先も顧客の困りごとが残り、需要が伸びる領域に人と資金を集中できているか。

第二に、信頼できる右腕がいるか。どれほど優れた戦略も、社長一人では実行できません。会議の進行、数値管理、部門を越えた意思決定を任せられる人材を育てる必要があります。

第三に、社員が当事者になれる仕組みがあるか。当事者意識を求めながら、権限も情報も渡していない会社は少なくありません。意識を変えろと叫ぶ前に、役割、評価、会議、情報共有の仕組みを変えることです。

第四に、コストとリターンが見合っているか。どれほど魅力的な施策でも、自社の組織が消化できなければ悪い投資です。導入することではなく、実行し、成果を回収できるかまで見極めなければなりません。

この4つが揃ったときだけ、大きく経営資源を投じる。勝てない賭けには乗らない。反対に、勝てる条件が整ったなら、中途半端に様子を見ず、人材、資金、時間を一気に集中させる。この規律が、会社を次の成長段階へ押し上げます。

社長、御社にとっての「ベイヤー指数」は何でしょうか。

流行や他社の成功事例より先に、自社が勝てる条件を定義できているでしょうか。

群衆を無視することが重要なのではありません。群衆の声に判断を委ねず、自社独自の物差しを持つことが重要なのです。

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