Aiはスキルの外部化

「AIに仕事を奪われる」「AIを使うと若手が育たなくなる」
最近、中小企業の社長と話していると、
そんな声を耳にすることが増えました。
しかし、私は組織開発や人材育成に長く関わってきて、
少し違う見方をしています。
AIが代替するのは、仕事そのものではなく、
その中にある一部の「作業」です。
資料の下書き、情報収集、議事録、分析。そこはAIに任せればいい。
結局は産業革命以来の人がやることの外部化です。
問題は、そこで浮いた時間を何に使うかです。
私は、AI導入の成果を「何時間削減できたか」だけで測るべきではないと思っています。
若手が昨日より一つ、自分で判断できるようになったか。
ここを見たいのです。
中小企業の現場で本当に怖いのは、人が減ること以上に、
社長や熟練社員が退いた瞬間、
その人の頭の中にあった知恵まで会社から消えてしまうことです。
「この客には、この言い方は通らん」
「図面上はOKやけど、うちならこれは出さない」
「この社員には、今は答えを教えない方がいい」
こういう言葉を、私は現場で何度も聞いてきました。
理由を尋ねても、
「長年やっていたら分かる」
「このお客さんはそういう人や」
と返ってくる。
実は、この“説明しきれない判断”の中に、
その会社の競争力があります。
だから私は、AIを単なる効率化ツールではなく、
社長や熟練者の頭の中に眠る判断基準を引っ張り出す触媒として使えないか、
と考えています。
やることは難しくありません。
若手にAIを使って顧客への提案書を作らせる。
そして15分だけ、社長が一緒に見る。
「AIの案は70点やな。でも、この社長は価格より納期を気にする。
だから最初に納期を書くんや」
「文章としては正しい。でも、うちはこんな言い方はせん」
ここが教育です。
さらにAIに、「なぜ社長はこう直したのか」を整理させる。
すると、今まで社長自身も言葉にしてこなかった顧客観、判断基準、仕事へのこだわり、いわば「経営OS」が少しずつ見えてきます。
AIでたたき台を作る
→社長が赤を入れる
→AIが判断理由を言葉にする
→会社の知識として残す
→次は若手自身が判断する。
私は、ここまでやって初めてAIが
「事業承継の道具」になると思っています。
ただし、社長のコピーをつくることが目的ではありません。
目指すのは、社長がいなくても回る会社です。
そのために、社長の知恵を捨てるのではなく、
社長一人の頭の中に閉じ込められていたものを組織の財産へ変える。
人事とは採用や評価だけではありません。
次の管理職、
次の経営者をどう育てるか。その意味で、人づくりは経営そのものです。
浮いた時間で人を減らすのではない。
社長と若手が、
「なぜこの客を大切にするのか」
「なぜここだけは譲れないのか」
「私たちは何のために仕事をしているのか」を語る。
そこから生まれる組織文化と人材育成は、大手企業には絶対に真似できません。
明日、若手社員にこう声をかけてみてください。
「AIに提案書を書かせてみたか? どれ、
一緒に『うちの魂』を注入しようじゃないか」
そして、その「魂」を社長一人のものから、会社全体の財産へ変えていく。
私は、そこにこそ中小企業のAI活用の本当の価値があると思っています。
最後までお読み頂き感謝です!
川添 信

