ゆずの搾り滓(かす)と600時間の狂気――高知大新学科が炙り出す「土佐流ブリコラージュ」

高知の6次産業化の現場は、机上の九九(1×2×3=6)ほど甘くはない

「限界集落のゆずで絶品ポン酢を作ったが、送料負けして在庫の山」「補助金が切れた瞬間、人手も販路も消えた」――。地方の中小企業が直面するのは、成功事例集には載らない、生々しい現実である。

経営資源(人・金・モノ)が足りない地方企業が、東京流の“理想のマーケティング”を真似ても、たいてい途中で息切れする。地方には地方の戦い方がある。

今、必要なのは、ないものを追い求める「スマートな経営」ではない。手元にあるものを組み替え、新しい価値を生む発想だ。

そのヒントになるのが、「ブリコラージュ(ありものを組み替える編集力、知恵)」という考え方である。地方創生とは、本来、この泥臭い知恵の積み重ねではないか。

そんな視点で見ると、高知大学が2027年度に新設予定の「パブリックイノベーション学科(仮称)」は、単なる学科再編ニュースではない。

経営者こそ注目すべき“実験装置”に見える。

理由は明快だ。学生が3年間で約600時間の実習に取り組むという。

一般的な短期インターンが数十時間規模だとすれば、600時間は見学ではない。半分は現場の当事者だ。しかも、固定観念に染まりきっていない20代の頭脳である。

中小企業にとって、これは「圧倒的な可処分時間」と「常識に縛られない発想」が、600時間分、自社の前に現れることを意味する。

ただし、多くの企業はここで失敗する。

学生を“手伝い要員”として扱った瞬間、この600時間は無価値になる。

企業が本当に差し出すべきなのは成功体験ではない。むしろ、赤字事業、廃棄物、人手不足、売れない商品といった「不都合な現実」である。

この新学科の面白さは、単なるビジネス人材育成ではなく、「生活・福祉」「文化・デザイン」といった“公共の視点”を持つ学生が関わる点だ。

その時、利益の物差ししか持たない企業に、別の補助線が引かれる。

例えば、ゆずを搾った後に大量に残る皮や種。従来なら処理費を払って捨てる“ゴミ”だ。しかし、文化・デザインの視点が入れば、地域の香りを伝えるアロマや染料へ再定義できるかもしれない。さらに福祉と掛け合わせれば、地域作業所との連携や、ふるさと納税を巻き込む物語へ発展する可能性もある。

高知という土地は、1次産業、高齢化、過疎といった課題が折り重なる、日本の未来の縮図でもある。だからこそ「産業」ではなく、「パブリックイノベーション」という名前を掲げた意味は重い。

本物のイノベーションは、たいてい現場の摩擦から生まれる。

地方を変える企業とは、立派な設備を持つ会社ではない。

「もう捨てるしかない」と思っていた搾り滓を前に、「まだ使える」と言い切れる会社である。

高知大学の600時間は、地域に足りなかった労働力ではない。地域が忘れかけていた“想像力”そのものなのかもしれない。

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