日本の起業促進に想う

「起業に無縁な人 78.0 %」「起業への低い社会的評価」というインフォーマルな制度の壁は、中小企業における「極深刻な採用難」と「社内失業・保守化」の構造と完全に地続きである。多くの地方中小企業やB2B製造業において、優秀な若手や跡継ぎが「起業や新規事業というリスク」を忌避し、安定を求めて大企業へ流出するか、社内に残っても前例踏襲の業務に埋没してしまうのは、社会全体が挑戦を冷遇するマインド(インフォーマルな規範)に支配されているからに他ならない。

しかし、既存事業のライフサイクルが縮長する現代において、中小企業が現状維持を選択することは緩やかな死を意味する。

ここで行政が提示する「ユニコーン企業を創出するようなゼロイチの起業」は、経営資源に限りのある中小企業にとってはあまりにも現実味がなく、実効性を持たない。中小企業が取るべき真のブレイクスルーは、社会全体の意識改革を待つことではなく、自社にすでに存在する経営資源を徹底的に組み替える「社内ブリコラージュ(既存資産の再結合)」による第二の創業(ベンチャー型事業承継や社内スピンアウト)である。

具体的には、中小企業の現場に即した2つの生存戦略が導き出される。

第一に、「眠れる固有技術・アセット」と「外部の若い感性」の接着(Glue)である。B2B製造業の現場には、世界に通用する微細加工技術や職人のノウハウ(フォーマルな資産)が眠っている。しかし、それを自社だけで新しい市場(例えば医療機器やB2C領域)へ繋ぐマーケティング力やマインド(インフォーマルな要素)が決定的に不足している。ここに、リスクの低い「副業・兼業人材」や「地元の大学」を接着剤として招き入れ、手元にある資源の「組み合わせ(ブリコラージュ)」つまり編集力によって、実質的な新事業(局所的な起業)を意図に反して立ち上げるのである。

第二に、「半径5メートルの主観的納得感」による、社内・地域内の同調圧力の反転である。中小企業の社員やその親世代にとって、「起業」は大それたリスクに見えるが、「うちの会社の技術を使って、あいつらが新しい面白いことを始めた」という生々しい事実(ミクロの事例)は、驚くほど強力に周囲の意識を書き換える。社内から小さくスピンアウトする成功例を1つ作ることで、78.0 %の「無関心な層」だった社員が「当事者の知り合い」へと変貌し、組織全体の心理的岩盤が内側から崩壊を始める。

結論として、中小企業における起業促進とは、大企業のような巨額のR&D投資や、シリコンバレー型の打ち手ではない。社長自らが「ブリコラージュ(編集)の建築家」となり、手元にある技術、人、地域の繋がりというピースを泥臭く組み替え、リスクをコントロールしながら勝てる局地戦を仕掛け続けること。この「中からの変革」の連鎖こそが、結果として硬直した日本社会の規範を裏口から書き換える、中小企業の唯一無二の生存戦略である。

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