397億円の焦げ付きに学ぶ――社長、その新規事業は「身内の独りよがり」か、それとも「最高のブリコラージュ」か?

日本のアニメや和食を世界へ発信する旗振り役として期待された官民ファンド「クールジャパン機構」が、累積損失397億円を抱え、事実上の解体へ向かっています。
「税金の無駄遣いだった」と批判するのは簡単です。しかし、この失敗を冷静に分析すると、そこには中小企業の社長が新規事業で最も陥りやすい意思決定の罠が凝縮されています。
重要なのは、関係者が無能だったわけではないことです。当時は東南アジア市場の成長や日本ブランド人気を背景に一定の合理性がありました。問題は、市場環境が変化しても仮説を修正できず、顧客から学び続ける仕組みを持てなかったことです。
まず教訓となるのは、「うちの技術は最高だ」という思い込みです。マレーシアでは高品質な日本製品をそのまま持ち込みましたが、現地の所得や消費行動とのズレから短期間で撤退しました。品質が悪かったのではありません。「誰に、どんな価値を提供するのか」という市場設定が曖昧だったのです。
経営者も「良いものだから売れる」と考えていないでしょうか。価値は作り手ではなく、顧客がお金を払った瞬間に初めて生まれます。
次の教訓は、「敵を間違えた企業は必ず負ける」ということです。海外向けアニメチャンネルは放送局と競争している間に、世界はNetflixやYouTubeなどの配信プラットフォームへ移行しました。敗因はスピードだけではなく、競争する土俵そのものが変わったことを見誤った点にあります。
さらに、過去の投資や成功体験への執着が撤退を遅らせました。変化の激しい時代、中小企業最大の武器は資本ではなく、素早く方向転換できる俊敏性です。
三つ目の教訓は、「成功の定義が曖昧な事業は迷走する」ということです。日本文化の発信と投資収益という二つの目的を同時に追った結果、成功指標が曖昧になり、誰も最終責任を負えませんでした。
これは中小企業でも同じです。「ブランドづくりだから」「将来への種まきだから」という言葉で赤字事業を延命させ、本業の利益を失ってはいないでしょうか。新規事業こそ、「いつまでに黒字化できなければ撤退する」という防衛ラインを最初に決めることが重要です。
では、中小企業は何を学ぶべきでしょうか。
それは、理想の資源を集めることではなく、今ある経営資源を再編集することです。
眠っている技術、既存顧客との信頼、地域企業とのネットワーク、長年培ったノウハウ――これらを組み合わせ、小さく市場で試し、顧客の反応を見ながら磨き続ける。この「ブリコラージュ」の発想こそ、中小企業最大の競争力です。
経営とは、未来を正確に予測してから動くことではありません。今ある手札から始め、市場との対話を通じて未来を創る営みです。
クールジャパン機構が失った本当のものは397億円ではありません。市場から学ぶ機会でした。
市場は補助金ではなく顧客が評価します。競争優位は資源の量ではなく、資源を顧客目線で再結合する力から生まれます。
国の失敗を笑って終わるか、自社の経営に生かす教科書にするか。その違いが、10年後の企業の明暗を分けるのではないでしょうか。

